インタビュー | HRクロスラボ代表・礒氏が語る、日本企業の人事変革とHRテックの未来


HRクロスラボ代表・礒氏が語る、日本企業の人事変革とHRテックの未来
Interview & Text: 郡司史徳(ZooKeep Head of Marketing)
建築とITの類似性に気づき、システムエンジニアとしてキャリアスタート、やがてHR領域の専門家へ。SAP SuccessFactorsの導入コンサルを経て独立した礒氏は、日本企業特有の人事課題と向き合い続けている。「テクノロジーと組織・人の共生」を掲げるHRクロスラボ代表として、データ活用の本質や、ZooKeepのような次世代HRテックへの期待を語ってもらった。
Human Origin | 原点とキャリア形成
── まずは礒さんの原点から教えてください。
私は、両親が共にスポーツ推薦で大学まで進学する程の競泳選手で、卒業後も母はベビースイミングのコーチ、父は競泳選手育成コーチというアスリート一家で生まれ育ちました。その影響もあり、私自身も生まれてすぐにプールに飛び込まされていましたが(笑)、成長するにつれて水泳への情熱は薄れ、結果的には四流選手どまり。中学校になる頃には水泳をやめ、普通に進学の道を選びました。
── 若かりし頃に、転機となった出来事はありましたか?
高校受験のときですね。受験勉強が苦しい時期に、スポーツ推薦で進学する人を羨ましく思い、父に「スポーツ選手って推薦で入れるからそこまで勉強しなくていいよね」みたいなことを言ったんです。そうしたら競泳コーチをやっていた父が「なめるな!」と激怒したんですよ。当時はまだプロ選手というものは野球など一部のスポーツだけで、今のようにキャリアパスとして想像もつかなかった時代です。父がその後に話してくれたのは、「彼ら(スポーツ推薦の学生)は勉強もやって、朝から晩まで練習もやって、大学を卒業したら引退という世界。さらにそれでも彼らは将来の保障がない中でスポーツを頑張って勉強もして社会に出ていく。お前は(アスリートに対して)なんて失礼なことを言っているんだ」ということでした。
父のこの一言は私の原点となりました。つまり「特定領域で何かを極めるプロフェッショナルやエキスパートという人材に対するリスペクト」が芽生え、自分もそうありたいと思うようになったんです。今でもスペシャリストや何かに突出した人材に惹かれたり、応援したいと思うのは、間違いなく父のこの一言の影響だと思います。
── その後、建築学科に進まれたんですよね。
父が建設業をやっていたこともあり、建築学科を選びました。でも実際に入学してみると、隈研吾さんや伊藤豊雄さん、妹島和世さんといった有名な建築家のアトリエに入って建築家を目指したい、という同級生ばかり。そんな意識の高い友人と比べると、自分は建築にそこまで情熱がないと感じました。こんな感じではこの世界では一流になることなんて無理ですよね(笑)。
── それでIT業界へ?
当時はちょうどWindows 95がきっかけにCUI(※1)からGUI(※2)へと変化し、インターネットが普及し始めた時代で、仕事は「これからはIT業界」という雰囲気でした。また家内(当時は付き合っていた)の両親も自分で技術をで生計を立てる、定年のない、いわゆる自営業を営んでいました。そんな環境や先ほどの父親の言葉の影響もあって、「自分も一人でも食っていけるように技術を身につけよう」とITエンジニアの世界に入り、プログラマーとしてキャリアをスタートしました。
ちなみに、当時プログラミング経験はゼロ、ブラインドタッチすらままならかったレベルからのスタートでした(笑)。
※1)CUI(シーユーアイ)とは、Character User Interfaceの略で、コマンド(文字)を入力してコンピュータを操作する方式です
※2)GUI(ジーユーアイ)とは、Graphical User Interfaceの略で、ウィンドウ・アイコン・ボタンなどの視覚的な要素を使って、マウスやタッチパネルで直感的にコンピューターやデバイスを操作できる画面のことです
── 建築学科からシステム開発へ、かなりのシフトだったのではないでしょうか。
実はそうでもないんです。建築とシステム開発のアプローチはとてもよく似ています。3DかPC の中の世界かの違いだけ。ただ、建物は崩れたら即生命に関わりますから、セオリーもプラクティスもシステム開発よりはるかに成熟している印象です。ITの世界は2000年当時まだまだ発展途上でしたが、大学で建築が学んだことでシステム開発の世界に比較的とすんなり馴染むことができたと思います。結果的に、建築家にはなれませんでしたが、建築家への憧れや設計・施工へのアプローチはシステムの世界で活かせると実感し、それが結果的にITエンジニアとしての私の原点になったということだと思います。
── HR領域に関わるようになったきっかけは?
HRとの出会いは、最初から狙っていたわけではなく偶然が重なったようなものです。現代建築の巨匠であるル・コルビュジエの言葉で「住宅は住むための機械である」という名言があります。ITエンジニアとしてキャリアを重ねる中で、ル・コルビュジエの言葉を「システムも使う人のためにあるべき」と置き換えるようになりました。つまり、開発言語やテクノロジー優先でシステム開発を考えるのではなく、ユーザーがきちんと運用できるシステムに仕上げるのが大事だということです。
そういう考え方を当時の会社の先輩や同僚に話していたら、ひょんなきっかけで社内のプロダクト開発のプロダクトマネージャー(PdM)を任されることになりました。ITエンジニアになって3年ぐらい経った頃だと思います。
私が担当したツールは、社内の申請・承認ワークフローを管理する汎用的なワークフローシステムでしたので、導入先がクライアントの人事や総務になることが多かったんです。結果的に7年間、システムを開発しながらクライアントに営業し、導入することでHR領域のノウハウがどんどん溜まっていった。HRとの出会いは、そんな偶然の積み重ねでした。
── その後、2010年に転職されますが、そこでの経験は?
転職先は人事・総務・経理業務をターゲットにしたフロントシステムをスクラッチで提供している50名ぐらいの会社でした。規模は小さいですが取引先は大手企業ばかり。しかし、入社すると、どのプロジェクトもトラブルだらけで、私は入社してすぐにプロジェクトマネージャーにアサインされ、トラブルプロジェクトの対応ばかりしていました。
そこで学んだのが問題解決の本質です。当時、クライアント先の部長から「礒さん、大概の障害の原因はシンプルで、人によるものなんだ」と言われたことはとても印象に残っています。これは「ミスの原因は人によるものがほとんど」である。でも「ミスを起こした人」が悪いのではなく「ミスを誘発する環境や組織」に問題の原因があるものだ、という趣旨です。昔、テレビの時代劇でよく聞いた「罪を憎んで人を憎まず」という言葉はそういう意味なんだなと今で時々反芻します。
── かなりハードな環境だったようですね。
その会社には結局4年近く在籍していましたが、今思えば、就業環境は結果的にブラックでしたたよね。それでも、当時は自分の中で「この環境で踏ん張らなきゃいけないんじゃないか」「辞めるなんて逃げなんじゃないか」という強迫観念もあって、退職する、環境を変えることなんて想像もつきませんでした。そんな私を心配してくれた大学の先輩が呑みに連れて行ってくれて「お前もう3年以上その環境でやったんだろ?十分頑張ったよ」と励ましてくれたことが転職のきかっけとなり、そこでSAP SuccessFactorsのコンサルタントとしてキャリアが始まりました。
Breakthrough| 転機と発見
── SAP SuccessFactors 導入支援をたくさんしてきた中で、特に印象に残っている現場での気づきはありますか?
まずは、SAP SuccessFactors の導入や運用に関わっていて良かったのは、最高の仲間と知り合えたことです。仲間には、同じ会社の同僚だけではなく、クライアントのご担当者様や一緒にプロジェクトに従事したパートナーの皆様です。その仲間とはHRクロスラボを設立した今でもお付き合いさせて頂いてます。こうしたご縁は本当に財産だと思っています。
一方で、日本企業におけるタレントマネジメントシステム導入における課題もわかりました。クライアントは提案時のデモで綺麗に表現されたダッシュボードを見て「そうそう!こういうのが見えるといいよね。これからこうあるべき」といってタレマネシステムを導入します。でも実際に導入するとデモで見た時のようなダッシュボードではない。つまりダッシュボードの元ネタであるデータが整っていなかった。それに加えて「何のためにどのデータを見たいか」という具体的な目的がないんですよね。
日本の多くの企業の人事データは人事労務系、つまり発令や給与計算の情報であり、それ以外の情報を持っていないケースが多いです。しかも人事労務系のデータは、あくまで給与計算を目的としたデータで、戦略人事からみればほんの一部の情報にすぎません。そんな現実はさておき、タレントマネジメントシステムのデモでは綺麗なダッシュボード、データドリブンな人事ができるような錯覚に陥って、導入してしまう。そして、実際にタレマネシステムを導入すると、結局は人事労務系の情報しかもっていないのでダッシュボードが全然リッチではない。さらに目的感も具体的ではないのでなんのインサイトも得られない。「これって誰が嬉しいのだろう」と虚しさを感じていました。
── お客様もその現実に気づく訳ですね。
そうです。出来上がったダッシュボードを見て「え、これしか見れないの?」と落胆する。クライアントも「データの整備」と「目的意識のなさ」が原因だとわかっても、どうすればいいかわからない。結局、目標・評価を運用すればいいという話になって、データ整備は手つかずのまま。結局、SAP SuccessFactors のような高価なタレントマネジメントシステムは単なる「評価システム」になってしまうんです。
Field Realities|現場のリアル
── 日本企業における人事データ活用の"あるある課題"を、率直に挙げるとすれば?
日本企業特有の課題が3つあると気づきました。
一つ目は、データ整備の問題。
先ほどお伝えした通り、データが戦略人事のために整備されていないこと。給与計算や勤怠管理のためのデータはあっても、人材戦略を考えるためのデータになっていない。
二つ目は、システムを入れればすべてオートマチックになるという誤解。
そもそもの「業務プロセスが煩雑」であったり「目的が明確」でなければ、デジタル化できません。これが理解されていないことが多いです。
三つ目は、日本と海外の雇用形態の違いです。
SAP SuccessFactors に限らず、Workday などの外資系タレントマネジメントシステムは欧米のジョブ型の雇用形態、つまりポジションに対して報酬やキャリアが紐づく組織の仕組みを前提に作られています。システム内では「ジョブコード」という職種やポジションを管理するコードを持ち、これに基づいて実務運用やキャリア開発のライフサイクルを効率的に回していくことが前提のシステムです。
しかし日本の雇用形態はそもそもジョブが明確に定義されておらず、当然報酬も紐づかないので、マネージャーが部下の報酬を知らないし、評価に基づいてボーナス予算を配分するという概念がないので、当然その権限もない。このように日本と欧米で雇用形態が全く異なるにも関わらず、日本企業が欧米の雇用形態を前提とした欧米型タレントマネジメントシステムをフル活用できる訳がないんです。
── 欧米企業と比較して、日本企業特有の難しさは?
グローバルに拠点をもつ日系企業は、各地域で異なる人事システムを使っています。特に給与計算システムはその傾向が強く、日本ではCOMPANY人事システム、アメリカではADPのようなイメージです。なぜかと言えば、雇用形態や社会保険制度が違うからです。
日本型のジェネラリスト文化のままで行くのであれば、日本型のタレントマネジメントがいい。ポジションベース(ジョブ型)であれば、SAP SuccessFactors や Workday がいい。
でも、グローバルでの報酬管理は、実際にはExcelでやっていたりします(笑)。トップマネジメント30人ぐらいの規模なら、無理してシステム使わずにExcelでも十分ですからね。それに、海外拠点のエグゼクティブ層には「日本に転勤させられるならやめます」という人も多いという話もよく聞きます。国境を超えて人事異動させられないのであれば、グローバル人材データベースを作る意味はあるのか、という現実もあったりするんです。
── 日本企業が「グローバル水準」を目指すべきかどうかについては?
経営の覚悟の問題だと思います。
ユニクロのように、「グローバルで勝負するから、グローバルな労働市場で優秀な人材を獲得するために、同じ水準で雇用しなければならない」というユニクロの発想はすごく自然で合理的です。
でも多くの日本企業は、国内市場と海外市場を完全に別物として考えている。日本市場が全ての展開市場の「ワン・オブ・ゼム」という整理ではなく、「国内市場と海外市場」という分け方をするケースが多い。江戸時代の鎖国が形を変えて起こっているようです(笑)。それを変える覚悟がなければ、国内でグローバル水準を目指す必要もない。
── 生成AIや自動翻訳ツールで言葉の壁がどんどん下がってきた今、日本市場を守られた市場として扱う前提が成り立たなくなってきています。海外からどんどん攻められてくるのではないでしょうか?
人材面でいくと、明治維新の不平等条約と同じような状況を起きているようの思います。同じパフォーマンスの人でも、海外で働いた方が高い報酬を貰える。日本では優秀な人材をキープできず、優秀な人材(資本)がどんどん海外に流出してしまう。けれども海外から優秀人材は入って来ない。国内より海外市場の売上が大きく、「自分たちはグローバル企業だ」と言いながら、人的資本や労働市場の話になると途端に内向きになっている矛盾。これは構造的な問題です。
労働市場は現実的にグローバルで流通することになるので、グローバル展開しているなら、国内組織もグローバル市場に含まれる一部として、どのようにして「個性を残し」ながら、「構造的に組織を見直す」か考える必要があるではないでしょうか。
── 人事変革していく日本企業はどういうアプローチを取るべきでしょうか?
日本企業は、異なる前提で作られた欧米システムをそのまま輸入するのではなく、それらの欧米システムの良いエッセンスを汲み取って、国産のパッケージやクラウドを作っていく方が良いと思うんです。
先ほど色々辛口なことを言いましたが、日本独自のジェネラリスト文化や、長期雇用を前提とした人材育成にはそれはそれで価値がある。それにフィットしたタレントマネジメントの仕組みを作るべきです。海外のツールをそのまま適用するのではなく、日本のオリジナリティを活かした仕組みを作る。そのようなシステムを作れるベンダーと組む、それが適切ではないかと考えています。

Mastery|成功の原則
── HRクロスラボが独立して3年半。成功に導くために最も重要なポイントは?
第一に「コミュニケーション」、特にお客様と「(課題に対する)共通認識」を持つことです。お客様とやりたいことや、達成したいことに対して共通認識を持つまでは、HRクロスラボは「実験」を始めません。そもそもの方向性を間違えると、全てが無駄になりますから。
私たちのクライアントは、すごく抽象的な課題を持っていることが多いんです。「システムを使いこなせていない」「HRのオペレーションが大変」といったふわっとした相談から入る。だから、共通認識を持つための整理工程から入っているんです。
── 具体的にはどのように進めるのですか?
お客様の言葉をそのまま事実として反映して認識合わせするために言語化していきます。単に一般論を振りかざすのではなく、「他の会社ではデメリットとなるケースが多いですが、御社ではこれはポジティブのように感じます」など、お客様の状況や実際に発した言葉を反映して、仮説をぶつけていく。反応次第や必要に応じて仮説を修正して「そうそう!」と、小さな「イエス」を地道に積み上げていく。このような進め方がお客様から評価いただけていると考えています。
例えば、ある企業から「給与計算・勤怠システムを変えたい。どんなシステムがいいか選定してほしい」という相談がありました。でも3ヶ月議論していく中で、本質的なニーズはシステムのリプレイスではなかったんです。
本質は、「システム運用に社内のコアな人材のリソースを割きたくない」、つまりそこに人事部人材が恒常的に割かれ続けていることが問題だったんです。極端に言えば、システムなんてなんでもよくて、より戦略的に従業員体験を高める施策を企画するというようなクリエイティブな仕事にコアな人材を回したかったのです。それが分かった時点で、プロジェクト目的は「給与計算・勤怠システムをリプレイスする」から「給与計算・勤怠業務をBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)ベンダーを選定する」、「社員体験を今以上に向上させる」ことに変わりました。
前々職の会社の役員がよく言った言葉で「お客様は正解を言わない、嘘をつく」という名言があります(笑)。これは「言っていることを鵜呑みにせず、しっかり向き合って掘り下げていくと本質が見えてくる」という意味で、私が大切にしている言葉の一つになっています。
── 仮説を作る際のコツは?
一般論を持っていかないことです。一般論だと「まあ、そうだね」で終わり、お客様からのリアクションを引き出せないし、退屈してしまう。従って、ヒアリングした上でお客様の言葉をつかって仮説を立てる。必ず「御社にとっては」という視点を入れる。そして仮説を確認する。
あと、私自身にHRテックのツール選定において、「中立の立場を保つ(特定のベンダーを推さない)」ように意識しています。私の考えではなく、お客様の言葉を理解した上で、お客様の本質的なニーズにあうHRテックの選定案を作成する。これは弊社が自社プロダクトを持っていないからこそできることかもしれません。
もし自社製品を持っていたら、それを推したくなるのは当然ですし、そこに誘導したくなる。私たちはそうならないように、あくまでも中立的な立場で、お客様の本質的な課題を解決することに集中する、それが価値だと考えています。
── 成功パターンや失敗パターンの共通項はありますか?
最近は実は失敗がほとんどないんです(笑)、そもそも「失敗」の定義が必要ですが、私の言う失敗は、お客様に迷惑をかけるような「失敗」です。そんな「失敗」をしないのは、これまでの経験に基づいて準備したり、コミュニケーションを気をつけているからだと思います。コミュニケーションで言えば、先述したとおり「共通認識を持つまで実験を始めない」、これが鉄則です。
逆に失敗するのは、お客様の言葉を鵜呑みにして、すぐに動き出してしまう場合。先ほどの例だと「システムを変えたい」と言われて、すぐにシステム選定に入ってしまうと、本質的な課題解決にはつながりません。
Encounter|ZooKeepとの出会い
── ZooKeepの創業者、ケイシーさんとの出会いはどのようなものでしたか?
とあるクライアント企業でHRテックに関するアドバイザリーをやっていた頃、当時の役員から「ZooKeep という面白いATSがあるか礒さんも同席して」と言われたのが最初のきっかけです。ケイシーさんは日本語が堪能で、しかもそのクライアント企業の業界についても非常に詳しくて、ミーティング前からケイシーさんがとても興奮されていたのを覚えています(笑)。
そして、デモでは自分の成功体験やノウハウを信じて作ったプロダクトへの情熱が、すごく力強く伝わってきました。それで「この会社、面白いかもしれない」と思って、HRクロスラボとして正式にコンタクトを取りました。
──ZooKeepのようなATSが、日系企業のタレントマネジメントやタレントアクィジション(人材獲得)における課題ニーズに対して果たせる役割をどう見ていますか?
採用は人事のライフサイクルの入口なので非常に重要です。ここで質の高いデータを取得し、構造化できれば、その後のタレントマネジメント全体に影響します。組織作りのファーストステップ。
ATSは、単なる「台帳管理」や「進捗管理」ではなく、採用活動の質を高めてくれる、リクルーター自身が成長できるプラットフォームになることが大事だと思っています。
── ZooKeep ATS をどのように評価されていますか?
私が製品を評価する際に大事にしているのは、プロダクト思想です。
例えば、SAP SuccessFactors は、欧米の雇用慣行をベースに、それを効率的に回していくというコンセプトで作られている。その前提を受け入れない企業には向かないわけです。
ZooKeep ATS の場合、創業者 CEOのケイシー・エーブルさんがエグゼクティブサーチやヘッドハンターとして現場でやってきた経験や、Google Japan & Koreaでエンジニア採用責任者をやってきたジョーダン・ジャジョーラさんの運用ノウハウが詰まっている。
ありがちな歩留まり管理システムではないんですよね。例えば、ZooKeep ATSには採用パイプラインの「ヘルスチェック」という概念がありますが、これは国内外のATSと比較しても他にはない重要な視点ですよね。これは人材獲得のプロならではの視点で、非常に魅力的だと感じています。
もう一つは、そのシステムを利用する採用チームのノウハウを向上させるツールだということ。各企業の採用チームにいる社員がプロのリクルーターではありません。このツールを使えば使うほどで、ケイシーさんやジョーダンさんと同じような採用オペレーションや採用リテラシーが身についていく。ZooKeep とともに採用チームが成長できる設計になっているんです。
三つ目は、採用活動データがワンストップで全部取れること。これも大きなメリットです。
Future & Advice|未来とメッセージ
── これからHRテック業界に参入するベンダーやスタートアップに伝えたいことは?
「置き換わる実態があるのか」を確認してほしいですね。
AIにしても、実際は「リアルな手作業やマニュアル運用」が、「テクノロジーに置き換わる」だけです。つまり、置き換える対象がなければ、テクノロジーは動かないんです。
例えばケイシーさんは、採用やエグゼクティブサーチ、リクルーターとしてのノウハウと、業界に纏わる構造的な課題を自分の肌で感じ、活躍されていた。そのノウハウがZooKeep ATS というプロダクトに置き換わっている。こういう実体験のベースがないプロダクトを私は信用できません。なぜならば、当社取引先企業は規模の大きく、実態はないけど「良さそう」「面白そう」だけではそのツールを採用できないからです。
給与計算というオペレーションがなかったら、給与計算システムは生まれない。採用活動というオペレーションがなかったら、ATSは生まれない。実態として運用されているもので、自分が感じた課題感が、新しい仕組みで解決されているのか。その答え合わせをしてほしいです。
── ZooKeepに伝えたいこと、期待されていることはありますか?
ZooKeepの深い採用ノウハウを活かしたプロダクトの特徴を評価してくれない顧客は見込み客ではない、ということですね。これは営業的には勇気のいる判断ですが、自分たちのコンセプトや思想を理解してくれる顧客とだけ付き合う。スタートアップだからこそ大切な判断だと考えています。
お伝えした通り、私はキャリアのはじめにPdM(プロダクトマネージャー)を経験しています。その中で痛感したのが「努力して保守性の高いシステムを作る」ということです。細かい機能要望を1から10まで聞いて言われたがままにプロダクトを作っていくと、保守性の悪い仕組みになってしまう。それは開発チームに跳ね返ってくる。そして、それはスタートアップの事業環境を圧迫します。
会社や事業を守るためにも、保守性を意識して、自分たちの軸は絶対にぶらさない。
ユニークであるということは、受け入れられない人もいるということなので、ZooKeepを評価してくれるお客様は必ずいると自信をもって進んで欲しいです。なによりも、ケイシーさんは既に以前に日本の採用業界でビジネスを立ち上げ、多くの仲間を得られている、これがその自信の証拠だと思いますよ。
── 経営層やCHROに向けて「この3年で必ず取り組むべきテーマ」を一つ挙げるとすれば?
まず、データを戦略人事のために整備するという意識改革が必要です。
給与計算のためのデータではなく、人材戦略のためのデータを設計する。
次に、システム導入 = 自動化ではないということを理解すること。
先ずは業務プロセスを整理し、何をシステム化するのかを明確にしなければ、どんなツールを入れても動かない、ということを理解頂きたいです。
そして、日本独自の雇用形態を踏まえた仕組みを作ること。
海外のシステムをそのまま輸入するのではなく、エッセンスを汲み取って、日本に合ったものを作っていく。海外のベストプラクティスを学ぶのは良いですが、日本独自の強みを活かした人事戦略を描いてほしいですね。
タレントマネジメントシステムを入れる前に、データをどう整備するのか。どんなデータが必要で、それをどう取得し、構造化するのか。ここに本気で取り組まないと、どんなシステムを入れても絵に描いた餅になってしまいます。
── ご自身がいま最もワクワクしていることは?
実用化支援ですね。HRクロスラボの「ラボ」には、その意味を込めています。
例えば、iPS細胞を山中教授が発見しても、すぐには実用化できない。実用化するまでにはいろんな治験を重ねる必要がある。AIも同じで、そのテクノロジーの概念や受けられるメリットを理解して、どうやってHRを通して社員に還元するか。実用化に持っていくまでのプロセス、アプローチが大事なんです。
私たちは、お客様の仕事を通じて実験し、ベストプラクティスを見つけ出し、それを標準化していく。ある程度標準化されたら、今度は人事変革のデリバリー事業やカスタマーサクセスというサービス事業にシフトしていく。
まだ完全に実用化できていないからこそ、どうやったら実用化できるかを追求する。これが私たちのミッションであり、一番ワクワクしていることです。
── 最後に、HRテックの未来について一言お願いします。
発明とイノベーションは違います。
発明されてきた既存のテクノロジーを組み合わせて、今の運用を再現性高くより良い方向へ置き換えて普及させていく、それがイノベーションだと思うんです。
テクノロジーと組織・人の共生。これを追求し続けることが、これからのHRテックには求められていると思います。
◾️インタビューイーのプロフィール
礒 一貴(いそ・かずき)。LinkedIn はこちら
HRクロスラボ 代表CEO。東京都出身。建築学科を経てIT業界へ転身し、プログラマーとしてキャリアをスタート。ワークフローシステムのプロダクトマネージャーを経て、HR領域の専門家へ。SAP SuccessFactors導入支援を手がけた後、2021年にHRクロスラボを設立。「テクノロジーと組織・人の共生」をコンセプトに、日本企業の人事データ基盤構築や実用化を支援。
【おまけ】
Q1:礒さんが人に勧めたくなる(勧めている)書籍やコンテンツはありますか?
HRテック関連の本やビジネス書は残念ながらほとんど読まないです。読んでもすぐに忘れてしまったり、頭にすぐに入ってこないので。
お勧めというより、印象に残っているのは恩田陸の「夜のピクニック」です。茨城県の高校の「歩行祭」を中心に描かれた青春物語です。高校が進学校だったので、高校時代は勉強に追われて青春していなかった思い出があるので、こういう青春物語に憧れているのだと思います。
Q2:「このシリーズでぜひインタビューしてほしい」という方がいらっしゃればぜひ教えてください。
Jonathan F. Kestenbaum ですね。2025年の HR Tech LasVegas で話したんですが、AMSという会社のシニアマネージャーで、何千件のHRTech、WorkTechの導入プロジェクトに関わっていて、リアルな実情をよくご存じです。
ZooKeepについて
ZooKeepは、企業の「人材獲得から始まる組織のタレントマネジメント力」そのものを変革するHRテクノロジー企業です。
単なるATS提供や人材紹介ではなく、「事業成長や組織変革に必要なクリティカル人材を、自社で見極め、口説き、活かし切れる組織」へと変革するための、テクノロジー×プロセス設計×実行伴走を一気通貫で提供します。
日系大手企業から成長企業まで、日本・ASEAN市場における人材獲得と組織変革を支援。独自の採用管理システム、実践型採用コンサルティング、人材管理コンサルティング、教育プログラムを通じて、採用から育成・定着までを見据えた持続可能な組織力の構築を実現します。
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