ケヴィン・ブロックランド:米国ミズーリ州からマレーシアへ。破綻企業債権アナリストからVCに転身した投資家が語る『人・プロセス・プロダクト』の優先順位


ケヴィン・ブロックランド:米国ミズーリ州からマレーシアへ。破綻企業債権アナリストからVCに転身した投資家が語る『人・プロセス・プロダクト』の優先順位
2025/12/17
インタビュイー: ケヴィン・ブロックランド(Indelible Ventures 創業者兼マネージング・パートナー)
インタビュアー: 郡司 史徳(ZooKeep マーケティング責任者)
破綻企業債権のアナリストが、東南アジアで最も思慮深いアーリーステージ投資家の一人となり、ZooKeepに賭けた理由とは。
起点|バックグラウンドと初期経験が投資マインドを形成するまで
Q:ケヴィンさんが金融の世界、そしてCFA(公認財務アナリスト)の道に惹かれたきっかけは何でしたか?また、その決断に個人的、あるいは家族の影響はありましたか?
ケヴィンの起業家精神は、中学校の管理者たちが困惑するほど早くから芽生えていました。
「スーパーでキャンディを買ってきて、校内で転売していたんです」とケヴィンは笑いながら振り返ります。「学校側は快く思っていませんでしたね。彼らの収益源である自動販売機と競合していましたから。彼らは独占権を持っていて、私はそのアリーナでの営業を許可されていなかったわけです」
ミズーリ州の小さな町で育ったケヴィンは、「物事をやり遂げること」を尊ぶブルーカラーの労働倫理に囲まれていました。母親はクレーンとホイストの会社で会計士として働き、父親のキャリアは特に興味深いものでした。長距離トラックの運転手からスタートし、マクドナルド・ダグラス社(現ボーイング)に入社。そこでFortranやCOBOLといった、今では絶滅に近い開発言語を使って金属を切断する機械のプログラミングを行っていました。
そんな環境の中、ケヴィンは兄弟と一緒にAtariのキーボードを使い、Basicでシンプルなノベルゲームをプログラミングすることに夢中になりました。その影響で2001年に大学でコンピュータサイエンスを専攻しますが、当時のIT部門は花形ではなく、むしろ「地下室に閉じ込められている」ようなイメージに違和感を覚え、再考することになります。
「私はかなり内向的ですが、地下室にこもるタイプでもありません」と彼は説明します。金融への転向は人生を変える決断となり、その後、世界中で多様なアセットクラスを取り扱う道へと彼を導きました。
転換点|リーマンショックと破綻企業債権から得た学び
Q:2008年の金融危機下のウォール街(リーマンショック)から、インパクト投資、そしてマレーシアへと至る道のりは非常にユニークです。資本やインパクトに対する考え方を変えるきっかけとなった人物や出来事はありましたか?
ケヴィンが大学院を卒業したのは、ちょうど金融危機が直撃した2008年でした。彼はTiger Capitalに入社し、破綻企業債権を扱うことになります。
「2008年以降に起きた大型の倒産案件を思い出してみてください。おそらく私たちは、そのほぼすべてに関わっていました」とケヴィンは言い切ります。同社は、当時リテールビジネスの象徴でもあったあるビデオレンタルのブロックバスター社の買収を狙い、カール・アイカーンと組んだこともありました(結果は失敗)。
しかし、この「火の洗礼」とも言える経験は、計り知れない学びとなりました。「多くの企業が抱える痛々しい亀裂を、最前列で見てきました」と彼は振り返ります。「現在、私が主に行っているのはB2B SaaSへの投資ですが、B2B SaaSの本質は企業のペインポイント(痛み)を解決することにあります。私は、何百もの企業の最悪の瞬間を見てきました。物事が悪化すると、すべての亀裂が表面化するのです」
この経験により、ケヴィンはスタートアップを評価するための独自の視点を手に入れました。「ビタミン(あればいいもの)」と「鎮痛剤(なくてはならないもの)」、つまり「あったら便利なソリューション」と「超クリティカルなソリューション」を見分ける能力です。
Tiger Capital時代のもう一つの教訓は、上司の徹底的な「結果重視」のマネジメントスタイルでした。とある日、ケヴィンが何気なく有給休暇の準備をしていることを伝えると、上司の反応はそっけないものでした。「どうでもいい(I don't care)」と。
「彼はこう言いました。『私が気にしているのは唯一、仕事が終わったか終わっていないかだけだ。仕事が完了したか、していないかの二者択一だ。休暇を何日取るかとか、何時にオフィスにいるかなどといった話をする必要はない。結局のところ、P/Lにインパクトを与えるのは仕事が完了したかどうか、それだけだからだ』」
この考え方は、ケヴィンの仕事に対するアプローチ全てを形成してくことになりました。「非常に合理的でした。私が中身を見ていない間にノートPCでゲームをしていようが、オフィスに顔を出さなければならない、などといった無駄な形式を排除する。結局のところ、仕事が完了しているかどうかなのです」
なぜ東南アジア|米国以外でVCキャリアを築く選択
Q:東南アジアやASEANのテック市場を狙うVCにとって、なぜマレーシアは戦略的に効率的なリージョナルハブなのでしょうか?また、アジアに住み、投資することで、米国からの投資と比較して視点は変わりましたか?
ケヴィンのマレーシアへの移住は突然の飛躍ではなく、より初期ステージ、よりグローバルな市場へと段階的にキャリア転換していった結果でした。
Tiger Capitalの後、彼は19カ国で17のファンドを展開するグローバル投資ファンドに参画しました。中国、東南アジア、中央アジア、南アジア、東欧、中南米、そして新興のアフリカ、中東市場をカバーするその役割は、大学時代のヨーロッパ留学で芽生えた「二度とアメリカには戻りたくない」というほどの放浪癖を満たしてくれました。
しかし、問題がありました。「キャリアの進展という点では、グローバルに監視するポートフォリオ・マネージャーというのは聞こえがいいですが、私が好きだった実際のインタラクション、つまりディールチームにいて創業者や経営陣と直接コンタクトを取ることから切り離されてしまったのです」
彼の見出した解決策は、初期ステージのEdテック(教育テック)やMedテック(医療テック)に焦点を当てたインパクト投資ファンドで中南米を担当するリージョナルな役割に就くことでした。彼はメキシコ・シティの「ボヘミアンなエリア」であるコロニア・コンデサに移住しました。
そこで偶然が重なりました。アジア担当者が産休に入ることになり、ケヴィンが代役を志願したのです。「地球の反対側の2つの地域をカバーしていたので、勤務時間はまさにAM/PMがひっくり返った状態でした。妻には『あなたの顔を忘れてしまったわ』と呆れて冗談を言われるほど家にいませんでした」
1年ほどこの維持不可能なペースで仕事を続けた後、彼は選択を迫られました。そして、アジアへの移住を選んだのです。
マレーシアを拠点にした理由は、実はシンプルに利便性の理由でした。アジア諸国への直行便が多いこと、生活費、移住のしやすさ、そして現地での英語の普及率です(※マレーシアは元イギリス植民地)。「出張が多い仕事において、効率性と快適さの両面で多くの要因がありました。長距離フライトや乗り継ぎをする必要がない。頻繁に移動する人間にとっては、この2点は本当に重要です」
彼はマレーシアに住んで9年になります。「子供の頃に過ごした実家を除けば、一つの場所にこれほど長くいたのは初めてですよ」
傲慢の罠(The Hubris Trap):謙虚さが重要な理由
破綻企業債権からVCへの転身は、単に新しいスキルを学ぶ以上のことを要求しました。それは「謙虚さ」です。
「最大の障害は、『レイトステージ(後期)を経験したから、アーリーステージの仕組みもわかっている』という傲慢の罠に落ちないようにすることです」とケヴィンは説明します。「企業のイノベーションチームがうまく機能しにくいのも同じメンタル面のブロック、つまり『大企業のメカニズムと複雑性の管理を知っているから、(アーリーステージの)イノベーションも簡単なはずだ』という思い込みがあるからです」
特効薬は?「『永遠の学習者(Perpetual learner)』のマインドセットを持ち、イノベーションは本質的に新しいものであり、新しいがゆえにすべてを知ることはできないという謙虚さを持って臨むことです」
これは彼の投資テーマにも反映されています。ケヴィンは、多様な視点を持つ創業者に惹かれます。新しい環境を新鮮な目で見つめる海外出身の創業者や、海外で生活・仕事・勉強をした経験のある現地出身の創業者です。「単一の視点に陥らないよう、視点の多様性が鍵となります」
Q:B2B SaaSの創業者は、企業のチェンジマネジメント(変革管理)の現状を打破するために、いかにして「ビタミン」と「鎮痛剤(pain-killer)」を見分ければよいのでしょうか?また、「投資を受ける準備ができている状態(investor-ready)」と、真に「準備ができている状態」の差は何でしょうか?
「現状のしきたりや習慣を覆すのは大変です」と彼はいいます。「私たちは常に『これまではずっとこの方法でやってきた』という認識と戦わなければなりません。どれだけ価値提案を示し、『収益を10%増やせます』と経済合理性を説いても、相手の頭の中では常に、学習曲線やチェンジマネジメントの負担が心理的なハードルになります」
彼は、営業チームが初めてCRM(顧客管理システム)を導入する例を挙げます。「外回りをしながら電話で情報を管理している人たちの習慣を壊し、実際にCRMにデータを入力させるのは容易ではありません。行動変容とは非常に難しいものです」
創業者が自問すべき問いとは「もし本当に(既存プロセスが)壊れていないなら、なぜ直す必要があるのか?私の提案による10%のコスト削減や増収は、クライアントがチームへの投資、チェンジマネジメント、トレーニング、監視、徹底に費やす時間など全てを正当化するのに十分だろうか?」
ケヴィンは、多くのスタートアップ創業者は「クライアント側から見た導入プロセス」を過小評価していると考えています。「もしクライアントの立場に立って、導入やオンボーディングが実際にはどのようなものかを考え抜くことができれば、それをスムーズで簡単なものにできます。摩擦をすべて取り除き、メリットだけを提供できれば、導入は自明の理(no-brainer)になります」
人→プロセス→プロダクト|アーリーステージの評価基準
Q:Indelible Venturesのフレームワークにおいて、なぜアーリーステージのB2B SaaSデューデリジェンスで「プロダクト」よりも「プロセス」を優先するのですか?
「なぜプロダクトを最後に置くのかと、いつも驚かれます」と彼は認めます。「しかし、それは私たちが関与するステージという文脈で捉える必要があります。初期の段階では、プロダクトは完成しておらず、まだまだ進化していきますし、完全にピボットする可能性もあります」
ここで言う「プロセス」とは、ガチガチの手順のことではありません。「フィードバック・ループ」を意味します。「私が言及しているのは、情報のスピード、反応のスピード、そしてより良い反応を可能にする洞察の質を中心とした、短く反復的なサイクルを可能にするメカニズムです。『行動→結果→学習』の絶え間ないサイクルです」
彼が注目する指標は「創業者がデータを取得し、顧客と話し、フィードバック・ループを得て、より良い情報を得るための手法を整えているか?それこそが、企業の資本効率を高めるのです」
そして、これは「人」に依存します。「それらのプロセスを構築し、適切に実行し、時間をかけて進化させていけるのは、優れた人材がいる場合だけです。意思決定者であり、ビルダーであり、ビジョナリーである『人』がトップに位置するのはそのためです」
ダーウィン進化論的な視点
ここで、ZooKeepのマーケティング責任者でもあるインタビュアーの郡司が自身の見解も述べました。
「今のコメントは非常に共感できます。私自身、企業もある意味でダーウィン進化論の対象となる生き物であると考えています。環境の変化を察知し、他の個体よりも早く自身のDNAをアップデートできる有機体こそが生き残る。環境の変化を見逃したり、捉え損ねたりしたものは絶滅します」
郡司は続けました。「以前、ある詩(※1)を読みました。うろ覚えですが、内容は『どの船が沈み、どの船が航海を続けられるかを決めるのは海である』。つまり自分が何をするか、どんな理想を抱いているかはさておき、結局は『自分の船をいかに海(市場環境)に適応させられるか』がすべてなのです」
(※1:詩ではなくフランスの哲学者アランの言葉で「船を形作るのは海そのものであり、海は機能するものを選び、それ以外を破壊する」)
ケヴィンはこの考えに同意しました。「確かに良い比喩ですね。海は非常に予測不可能なものですから・・・」
シグナル、ノイズ、AI活用の注意点
ケヴィンは投資判断におけるAIの活用に関する懸念についても言及します。その懸念は、何が「アウトライアー(桁外れの成功)」をもたらすのかについての彼の深い理解を反映しています。
「大半のLLMはデータセットで学習されています。つまり、学習データに基づいた確率モデルなのです。本質的にベル曲線の真ん中にある『平均値』に向かうようにできている訳です。しかし、VC投資はそういうアプローチでは成功しません。私たちVCはアウトライアーを特定することに興味があります。平均が欲しいのではなく、上位5%の異常値を特定したいのです。AIを活用できる部分はたくさんあっても、まだまだ限界はあります」
これは、知能とバイアス(偏向)に関するより広範な洞察につながります。郡司は、あるエンジニアとの最近の会話を引き合いに出しました。「AIであれ人間のインテリジェンスであれ、バイアスなしに本当のインテリジェンス(知能)は存在し得ない。なぜならインテリジェンスとは定義上、何かしらの価値観を軸として良し悪しを判断する必要があるからです」
ポイントとなるのはバイアスを排除することではなく、透明性、つまりバイアスがある事を自覚することで、どの価値観を軸にした回答なのかを判別できることなのです。そのエンジニアはさらにこう言いました。「AIを使う人は、そこにどのようなバイアスが組み込まれているかを知る必要がある。それさえ分かっていれば問題ない。しかし、バイアスのないAIを作ることは意味をなさない。なぜなら、すべての情報を中立で等しく価値あるものとして扱えば、知的な回答は得られないからだ」
未来への展望|ビジョンよりも適応力
Q:急速に変化する市場において、適応と生存という観点においてスタートアップをどのように捉えていますか?
「歴史的に、ほとんどの企業はリソースに基づいて分析し、合理的な判断を下してきました。『そのソリューションを作るために必要なリソースを正当化できるほど大きな問題か?』という単純な比較です。自社で作るのにかかる時間とリソースに対して、月額200ドルのサブスクリプションを買うのか、あるいはメンテナンスのために1人の人員を割くのか」
AIはこの方程式を変えます。「その計算自体は残りますが、リソースの量が劇的に変わりました。個人が成し遂げられることが、AIで『スーパーパワー化』されたのです。かつてリソースの観点から困難だった偉業が、より容易に達成できるようになります」
しかし、そこに落とし穴があります。「企業は一般的に『作る(build)』側は得意ではありません。それは彼らのコア・コンピタンスではないからです。彼らは自分たちのペインポイントは熟知していますが、解決策をどう構築すべきかは実際にはよく知りません。多くのペインポイントは純粋に特定可能なものではなく、外部の視点を必要とする深層に埋もれた要因なのです」
ケヴィンは「スピード」が民主化されるとも考えています。「かつてスピードは非常に強力な競争優位性でした。他が走っている間に電光石火で動けるチームは勝つ確率も高かった。今でもスピードは重要ですが、それはあくまで『参加資格(table stakes)』になりつつあります。Claude CodeやCodexなどを活用していない開発者はほとんどいませんから、誰もが非常に速く動けるのです」
これにより、新たな防御要件が生まれます。「(プロダクトの)コピーにかかる時間が短縮されるなら、先行者メリットだけでは勝てません。初日から防御性が問われます」
進むべき道は?「単に痛切な問題を解決するポイント・ソリューションを作るだけでは不十分です。ワークフローにどれだけ深く入り込めるか、解決しようとする問題の深さとニュアンスにどれだけ深く踏み込めるかです」
ケヴィンは、特定のユースケースに極めて細かく入り込む「バーティカルAI」には強気ですが、水平展開型のERPには懐疑的です。「それらの多くは個別のユースケースに合わせて作られていません。システムをカスタマイズするコンサルタントの巨大な業界が存在しますが、その多くは脅威にさらされるでしょう」
AIによる破壊が進んでも、防御性の原理は変わらないとケヴィンは信じています。「ソフトウェアを剥がして入れ替える(rip and replace)ことがいかに困難かというポイントは、ERPやCRMのようなSoR(System of Record)系のシステムにおいて、将来のSaaSやAIでも有効です。それらは組織のあまりに多くの側面と相互に連携しているため、入れ替えるのが非常に難しいのです」
創業者が解くべき問題は「簡単に複製できる表面的なポイント・ソリューションではなく、不可欠なものとなる深く統合されたワークフローを構築すること」です。
なぜZooKeepに投資したのか
Q:何が決め手となって「ZooKeepこそが、自分のエネルギーと資本を投資する場所だ」と思ったのですか?また、Indelible VenturesがZooKeepチームへの投資を決めた具体的な要因は何でしたか?
「最初にケーシー(ZooKeep代表)に会った時は、投資の話ではありませんでした。彼はマレーシアに何度も足を運び、関係を築くための種をまいているようでした。これは非常にスマートな戦略だと思います。私たちはただお互いを知ることから始めました。彼が来訪するたびにコーヒーを飲み、会話し、彼の考えを深掘りしていきました」
すぐに際立ったのは、ケーシーのドメイン知識(専門性)と知的謙虚さの組み合わせでした。「彼はHRや採用領域で様々な業界に対して深い知識を持つシリアルアントレプレナーです。しかし、テック側へのシフトは新しい挑戦でした。私が感じ取ったのは、まさに私たちが話してきたこと、つまり『ビジョンに対する確信を持ちつつも、それに固執しすぎない(strong convictions, held loosely)』姿勢でした」
「船を操縦するには、進むべき方向に対する確信が必要です。しかし、その確信に永遠に盲従してはいけません。事実が変われば、考えを変えなければならないのです」
二人の間の会話から、戦略面の考え方が一致していることが明らかになっていったようです。特に「日本、オーストラリア、ASEAN」の架け橋となり、双方向のタレントフロー(人材流動)で市場をつなぐという構想です。「それは私の考え方と非常に強く共鳴しました。多くの視点で一致できたのです」
Q:ZooKeepの「サービス×ソフトウェア」BPaaSモデルが、特にアジアにおいて効果的だと考えるのはなぜですか?また、ASEANや日本の人材市場における構造的課題を、ZooKeepは解決できるのでしょうか?
ケヴィンは、複数の説得力のある要因が重なっているといいました。
第一に、日本市場の機会です。「日本は、実は私たちIndelible Venturesのコアな投資テーマではありません。東南アジア/ASEANが核心です。しかし、ZooKeepを見たとき、日本市場単体でも強力な正当性があると感じました。HRや採用を巡る変化のマクロ経済的な要因を見ると、人材プールの縮小によってエコシステムの全プレイヤーの利幅が上がるため、非常に魅力的な状況です」
ケーシーがすでに市場で築いていた人間関係は、競争優位性を生み出していました。「外部の視点から見ると、日本は参入が難しい市場です。もし以前のビジネスからの既存の関係があり、同じ意思決定者に電話一本で話ができるなら、それは他の市場参入者に対して本質的な優位性を持っています」
これは、日本のビジネスの進め方に対するケヴィンの理解を反映しています。「『リレーションシップ(関係)が第一、バリュー(価値)が第二』という市場です。関係性を突破できなければ、価値が何であるかは話題にすらなりません。なぜなら信頼できなければ、その人の提供する価値も信頼されません」
第二に、「サービス×ソフトウェア」のBPaaSモデルです。「ZooKeepにはソフトウェア単体ではなく非常にレベルの高いサービス要素があります。『ソフトウェアにサインアップしたので、次の請求日までさようなら』ではありません。SaaS、つまり『Software as a Service(サービスとしてのソフトウェア)』に2つの『S』が組み合わされているのには訳があるのです」
東南アジアにおいても特に重要です。「この市場の経済圏はデジタル化の途上にあります。ほとんどの企業は、テクノロジー浸透という観点からしてまだ未熟です。意欲は高いですが、テック主導のビジネスを構築する際には、サービス志向が本質的に必要だと考えています」
第三に、パートナーベースのGo To Market(市場参入戦略)です。「ZooKeepは多くの市場でパートナー戦略をとっています。マレーシアでケーシーが事業提携している人々を私も知っています。私が投資を検討していた時、彼はすでに現地で多くのパートナー関係を構築し始めていました。そのため、私が彼やZooKeepについて質問し、実態について検証できる人々が増え、彼ら全員がケーシーとZooKeepを高く評価していたことが、投資をより確かなものにしました」
先を見据えて|長期的なビジョンとインパクト
Q:ZooKeepは、今後5〜10年で企業の採用や人材発見のアプローチをどのように根本から変えることができるでしょうか?
「東南アジアにはまだ長い道のりがあります。日本では人材プールが限られているため、発見可能性(discoverability)や長期的な追跡能力が非常に重要になります。東南アジアでは、トップ層の人材プールは比較的狭い一方で、ポータビリティ(流動性)の課題があります。シンガポールという強い磁石のような市場が人材を吸い寄せたり、欧米諸国や他のOECD先進国市場へ流出したりする流れが強いのです」
その結果どうなるのでしょうか。「タレント・エコシステムは非常に断片化しています。この固有の断片化が挑戦を生みます。伝統的な方法で求人を埋めようとすれば、適性の低い候補者からの応募が殺到します。採用プロセス全体が大多数の企業にとって大きな不満の種であり、市場構造として壊れています」
ZooKeepの差別化要因は、単なるATS(採用管理システム)ではない点にあります。「ZooKeepチームがや戦略的パートナーの提供する付加価値は非常に高いものです。直接プラグインできるサービスによって、シームレスなワンストップショップのユースケースとなっています。差別化要因は、相互運用性(インターオペラビリティ)に関するアプローチ、それに加わる本質的に価値ある機能を厳選したキュレーション力、そしてサービス指向のアプローチです。これこそが、多くの企業が外部委託せざるを得ないペインポイントに対処するものなのです」
ケヴィンはネットワーク効果も予見しています。「ZooKeepが東南アジア市場で提携するパートナー企業も自社の業務効率化につながるからZooKeepテクノロジーのユーザーとなり、それをさらに川下へと広めるエヴェンジェリスト的な存在になる構造ができています。これは興味深い市場参入手法であると同時に、明確な価値提案が検証されている証拠でもあります」
架空の看板広告へ載せたいメッセージ
Q:東南アジアのすべてのアーリーステージ創業者が目にする架空の看板に、一つだけメッセージを載せられるとしたら、何と書きますか?
「昔からよく言われる言葉ですが『もし簡単なら、誰もがやっている(If it was easy, everybody would be doing it)』。スタートアップは大変ですが、それには理由があります。ハードワークには、より大きな見返りがある。簡単なら、見返りは少ないか、あるいはゼロでしょう」
創業者に受け取ってほしいメッセージは?「『永遠の学習者』のマインドセットを持つことです。すべての答えを持っていないという謙虚さと、船を操縦する確信を併せ持ちつつ、ファクトが変わった時に、それを認識して進路を変えられる頭の柔軟性を持つことです」
Q:投資を受ける準備が整っている状態(investor-ready)とは、を理解したい東南アジアの創業者や、新興市場でVCをやっている方にとって、ケヴィンさんとつながる最善の方法は何ですか?
「LinkedInで『Kevin Brockland CFA』と検索してください。それがベストです」。ただし、注意点があります。「つながり申請を送るなら、メッセージを添えてください。ただ申請するだけでは、大量のAIによるスパム的なビジネス勧誘に埋もれてしまいます。意味あるメッセージを添えて目立つ必要があります。私はメッセージに目を通しますし、つながる理由が理にかなっていれば、繋がり申請を承諾します」
インタビューイー:ケヴィン・ブロックランド
東南アジア全域のB2B SaaS企業に焦点を当てたアーリーステージ投資家。ZooKeepの投資家であり、同地域のポートフォリオ企業のアドバイザーとしても活動。
おまけ
Q:ケヴィンさんの考え方を根本から変えた本や記事などはありますか?なぜそれほど深く共鳴したのでしょうか?
『再帰性(Reflexivity)』ジョージ・ソロス著
「フィードバック・ループと、それがいかに経済的成果に影響を与えるかについて書かれています。自己成就予言に近いものです。事実的なものと行動的なものの間の相互作用。これは私のスタートアップ観にも通じます。成果を必然にできるか?また、ハイプ(熱狂)と現実を切り分けるレンズにもなります」
『The Mom Test(お母さんテスト)』ロブ・フィッツパトリック著
「学校で作った図工の作品を家に持ち帰る子供を想像してみてください。お母さんは何と言いますか?『まあ素敵、今まで見た中で一番素晴らしいわ!』。でも、実際には上手くないし、作品も良くない。顧客と話す際に、シグナルとノイズを分けるためのフレームワークを構築する、非常に興味深い本です」
『Buy Back Your Time(時間を買い戻せ)』ダン・マーテル著
「FIRE(経済的自立、早期リタイア)メンタリティに近い内容ですが、スタートアップにも多くの適用性があります。自分の時間を限られたリソースと考え、それを買い戻すという考え方です。エグゼクティブ・アシスタントやバーチャル・アシスタントを雇うことの機会費用を考えます。なぜ月に500ドル払うのか?それは、解放された時間で、月5,000ドル、10,000ドル、あるいは50,000ドルの価値を生み出せるからです。異なるフレーミングと文脈で物事を捉えるための本です」


